概要
ADF2007.01 リリースノート 2007年8月
ADF2007.01では、スピン-軌道相互作用を考慮した構造最適化計算や、周期系の構造最適化計算に対応するなどの新機能が搭載されています。GUIにおいても、ジョブ管理のためのモジュールであるADFjobsの追加や、結晶・表面構造の構築機能の 追加、より多くのプロパティ表示に対応するなどの機能追加・改良がなされています。
Summary ADF2007.01 improvements
- ADF
- 構造最適化、遷移状態探索、SCFの収束方法に対していくつかの改良がなされました。振動円二色性スペクトル(VCD)、およびスピン−軌道相互作用を考慮した構造最適化の計算が可能になりました。Windows版のADFが並列計算に対応しました。MO6の交換相関エネルギー汎関数が追加されました。計算効率に関する多くの改良、およびいくつかのバグフィックスが行われました。
- ADF-GUI
- 新モジュールのADFjobsがADF-GUIに加わりました。ADFjobsは、ADFおよびBANDに対応したジョブ管理ツールで、リモート実行機能を備えています。その他の改良点として、原子電荷や結合長・結合角の表示、エネルギーグラフの作成、動画ファイルの出力、cubeファイルの入出力がサポートされるようになりました。また、使い勝手やデザインも改善されました。
- BAND
- 周期系に対して構造最適化計算がサポートされました。また、計算速度面での改良がなされ、さらに、Time-Dependent DFTの計算機能に対していくつかの拡張がなされました。
- BAND-GUI
- 結晶構造および表面構造の構築機能が追加されました。
詳細
ADF-GUI: New ADFjobs module
ADF2007.01は、ADFおよびBANDのジョブ管理を容易にするためのモジュールであるADFjobsを搭載した最初のリリースです。ADFjobsを使うことにより、全てのジョブの一覧表示、計算が終了したジョブへのアクセス、ローカルあるいはリモートマシンへのジョブの実行、実行中のジョブの監視が可能となります。さらに、ADFjobsから、ADF-GUIあるいはBAND-GUIのその他のモジュールを直接起動できるようになっています。
ADF-GUI: Other Graphical User Interface (ADF-GUI) improvements
ADF-GUIの主な改良点・変更点は以下のとおりです。
●ADFjobs: ローカルおよびリモートマシンに対するジョブ管理
●使い勝手・デザインの改善
○ボタンやアイコンの表示が改善されました。
○ADFinput: 作成される実行スクリプトが単純化されました。
○ADFinput: 分子エディタツールのレイアウト、およびMain Optionsパネルで設定できる入力オプションの項目が変更されました。
●結果の可視化
○ADFview: cubeファイルの入出力がサポートされました。
○ADFview: 描画領域に原子情報、結合長、結合角が表示できるようになりました。
○ADFmovie: MPEG形式の動画ファイルが作成できるようになりました。
○ADFmovie: 2次元グラフが作成できるようになりました。
○ADFmovie: リアルタイム表示が可能になりました。
●新しく追加された多くの入力オプションに対応
ADF: Improved Optimization in delocalized coordinates
delocalized coordinatesを用いた構造最適化計算に対して、そのパラメータとアルゴリズムが改良されました。この改良により、弱い結合を持つ系や柔らかい系を扱う場合、あるいは最適化における収束条件を厳しくしたような場合に、より少ないステップ数での収束が可能になりました。また、delocalized coordinatesを用いた遷移状態探索に対しても同様の改良がなされました。
ADF: Frequency scan, Raman
指定した振動数の範囲に対してだけラマン強度が計算できるようになりました。また、指定した振動数の範囲に対してだけfrequency scanが実行できるようになりました。(frecuency scanは、絶対値が小さい振動モードに対して、それが負の振動モードであるかをより正確に確認するためのものです)。また、新しい入力オプションが追加され、解析微分を用いた振動数計算の後に自動的にfrequency scanが実行できるようになりました。
ADF: Transition State searches: partial Hessian and improved NEB
選択した原子に対してだけの部分的なヘッセ行列(2次微分行列)が計算できるようになりました。反応中心のように高精度な取扱いが必要な部分に対しては量子力学的に、それ以外の部分に対してはsemi-empiricalな方法で簡易的に計算することによって全体のヘッセ行列を求めることが可能です。Nudged-Elastic-Band (NEB)法が改良され、より少ないステップ数で収束するようになりました。
ADF: Spin-orbit gradients
スピン−軌道相互作用を含む相対論効果を取り入れたエネルギー勾配の計算が可能になりました。これにより、スピン−軌道相互作用を考慮した場合でも、振動数(数値微分)、構造最適化、遷移状態探索の計算が可能になりました。
ADF: Vibrational Circular Dichroism (VCD) spectra
振動円二色性スペクトル(VCD)の計算および表示ができるようになりました。
ADF: Environment modelling – Frozen Density Embedding (FDE)
Frozen Density Embedding (FDE)のプログラムが再構築され、より拡張性の高いプログラムになりました。
ADF: Environment modelling – QUILD
複数の計算モデルを組み合わせた計算を可能にするQUILDプログラムが開発されました。このプログラムでは、対象とする系を複数の部分に分割し、分割された各々の部分に対して異なる計算モデルを設定することが可能です。ここでの分割の仕方は柔軟に定義することが可能で、ONIOM法のようにレイヤー構造にする必要はありません。対象とする系は任意の部分に分割可能で、重なり部分も許されています。この分割の様子がquilt(キルト刺しゅう、はぎれ刺しゅう)に似ていることからこのプログラムの名前が付けられました。計算モデルとしては、量子力学的(QM)な取扱いと分子力学的(MM)な取扱いの任意の組合せが可能ですが、現時点ではそれ以外の計算モデルはサポートされていません。
ADF: New SCF convergence option
SCFの収束オプションとして、NEWDIISが新たに追加されました。従来のDIISオプションではSCFの収束に問題があったいくつかのケースに対して、NEWDIISオプションを使用することで問題が解決されるようになりました。
ADF: MO6 xc functional
Zhao-TruhlarのMO5およびMO6の交換相関エネルギー汎関数が追加されました。
BAND-GUI: Various Graphical User Interface (BAND-GUI) improvements
BAND-GUIの主な改良点・変更点は以下のとおりです。
●ADFjobsによりBANDのジョブ管理が可能になりました。
●結晶構造および表面構造の構築機能が追加されました。
●構造最適化計算がサポートされました。
BAND: Geometry optimization for periodic structures
1-3次元の周期境界条件を課した系に対して、デカルト座標を用いた構造最適化計算が可能になりました。現時点では、ヘッセ行列の初期値として単位行列のみがサポートされています。また、拘束を課した構造最適化計算には対応していません。構造最適化計算は、非相対論および相対論(Scalar ZORA)の両方に対して実行可能です。
BAND: Time-dependent DFT extensions
Time-Dependent DFTの機能が拡張されました。金属に対する誘電関数の計算が可能になり、スピン−軌道相互作用の効果が考慮できるようになっています。また、Vignale-Kohn汎関数が新たにサポートされました。
BAND: Linear scaling and speed-ups
TailsキーワードとnonorthogonalSCFキーワードのデフォルト設定が変更され、大きな系の計算にも対応できるようになりました。
BAND: New TZP basis, improvements for lanthanide basis sets
いくつかのランタノイド元素に対して修正が加えられました。また、全ての元素に対してTZP基底関数系が新たに追加されました。